著作権侵害のパラドックス(チョサクケンシンガイノパラドックス)

模倣の存在が創作を加速させるという考え方のこと

(模倣品との差別化のために新たな再創作が生まれる。)


ラウスティアラ&スプリグマン(2015)は、アメリカの著作権法において、創作者にコピーを作る権利の独占権を与えるべきとする理論をイノベーション独占理論と呼び、独占理論では、コピーを、創作性に対する重大な脅威とみなしていることを指摘した。

もしも 自分の創作物が他人によって自由にコピーされるとわかっていれば、創作者はそもそも最初から苦労して創作などしないはずなので、誰がコピーしてよいか決める独占権を創作者に与える法的権利が必要であるということである。 

しかし、現実には、コピーが蔓延している。例えば、ファッション産業である。にもかかわらず、ファッション産業は、創作性を維持しながら繁栄している。どうしてだろうか。 この疑問に対して、ラウスティアラ&スプリグマン(2015)は、ファッションの特殊性をもって答えている。

ファッションをトレンドが動かす産業,古いトレンドを捨て新しいトレンドを見つけることでステータスを獲得、あるいは保持しようとする人々が動かしている産業として捉えれば、なぜファッションにおける模倣がイノベーションを損なわない のかを説明するのに役立つと考えたのである。 

ファッションの特殊性についての考えかたには、ヴェブレン(1899)やジンメル(1904) が影響している。 ヴェブレン(1899)は、社会生活におけるステータスと、そのシグナリング(顕示,見せびらかし)について考察した。

例えば、ファッションとの関連でみると、仕事をしなくても生活できる有閑階級の人々は、そのステータスを見せびらかす手段として、妻や子供、使用人を贅沢に着飾らせるといった例が挙げられる。このように着飾ったファッション製品は、ステータス・シンボルとなる。

 ジンメル(1904)は、上流階級と下流階級との間に存在する同質化と差別化の欲求について指摘し、流行が絶え間なく移り変わるメカニズムについて考察した。

上流階層のスタイルに憧れる下流階級の人々は、上流階級に同質化するために模倣するが、模倣された側の上流階級の人々は、下流階層と差別化するために新たなスタイルを追求する。こうした同質化のための模倣と差別化のためのイノベーションを繰り返す中で、流行は絶え間なく移り変わることとなる。 

このような議論は、模倣がイノベーションを妨げるのではなく、むしろ、次なるイノベーションに拍車をかけることにつながることを示唆する。ラウスティアラ&スプリグマン (2015)は、コピーや模倣の蔓延はむしろ「誘発された衰退」を促進し、スピーディーな 流行の変化と大きな売上を業界にもたらしているとした。また、コピーは、デザイナーにファッションの最前線で一歩先んじるための再創作を促すことで、新しい創作プロセスを加速し、ファッション・サイクルを短縮させていると主張している。コピーを許している法的ルールは、スタイルの普及を加速させていると考えたのである。

ラウスティアラ&スプリグマン(2015)は、個々のデザイナーが被る損失についても、興味深いデータを提示している。高級品を真似て低価格で売られることが多いコピー製品が、エリートデザイナーに影響を与えているかどうか、についての示唆を得るために、アパレル製品の価格変動を分析した。

供給が増えれば通常は価格が下がるので、コピー製品との競争によってオリジナル製品の価格は下がったはずだが、1998年から2010年までのアメリカのファッション産業における女性ドレスの平均価格を見る限り、 ファッションでそのような傾向は見られない。期間中ハイエンド商品の価格は堅調に上昇したのである。 模倣がはびこるアメリカのファッション産業が、イノベーション独占理論の見解-模倣によってイノベーションが妨げられ産業が縮小するだろうとの見解-とは裏腹に、大繁栄しているという例である。


出展:日本マーケティング学会 ワーキングペーパー Vol.2 No.6 『ファッションと模倣 東大門市場における製品開発を事例に』 金 珍淑 敬愛大学経済学部


上記主張に対するヴァイン伸太郎の反論

コピー品が蔓延することで、デザイナーが差別化のために新たな再創作を強いられることは、デザイナーの創作の「量」や、その頻度の「短さ」が社会にもたらされる利益であるとすれば、社会にとっては良いことだという主張だろうが、デザイナーが独占できたはずの利益が模倣者に分配されてしまうことに変わりはなく、デザイナーとしては同じ利益を得るためにより多くの仕事を強いられる。オリジナルの需要者にとっても、模倣品との差別化のために新たな製品を購入する必要が生まれ、購入後に差別化による見せびらかし効果を享受できる期間が短くなるとオリジナル製品を購入する需要が低下する。

もちろん模倣品生産者および模倣品の購入者には良いことであろうが、オリジナルのデザイナーにダメージが無いとする説明は成り立たない。

『供給が増えれば通常は価格が下がるので、コピー製品との競争によってオリジナル製品の価格は下がったはずだが、』という仮定はヴェブレン効果によって購買される製品には成り立たないため、オリジナル製品の単価が下がっていないことでオリジナルデザイナーに不利益が無いことの説明とはならない。

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